後片付けを始める蒼。

『置いておいていい』って言ったのに。

言い出したら聞かないのはなんとなくわかってきた。


「ありがとう。」

「いぃえ~」


食器洗いは手際のいい蒼。

多分、家でもやってるんだろうな。

対面キッチンのカウンターから手元をのぞき込む。


「あんまり、見られると緊張するんですけど~。」

「はは!割らないでね~。」


蒼の食器洗いする姿を見たことある人は数少ないんだろうな。

そんな事を考えて、なんだか優越感に浸っていた。

こんなふうに誰かと休日を過ごせるのも幸せな事だったんだな。

心からの笑顔を蒼に向けている自分がいる。

作りものじゃない…ホントの笑顔。

蒼は信じられる。

大丈夫…。






「なんかさぁ…」

「…何?」


月曜日の昼休み。

おもむろに茜が話し出す。


「アンタたち付き合いだしたりしてる?」

「「は!?」」


教室がザワメく。


「えぇ、相原くんが?ショック!」

「でも、美月なら…ねぇ。」

「相原の奴ぅ~!」

「あぁ、美月ちゃぁ~ん!」


などなど、いろんな声が聞こえてくる。


「付き合ってねーし!」

「そうだよ!なんでいきなりそんなこと!」


私たちは大慌てで否定する。

周りは、ホッとする雑踏。


「そ?なんか…今までと違うんだよな~。二人の間にあった壁がなくなったみたいな…そんな感じがしたから。」


…。

茜は勘が鋭い。

多分、変わったのは私。

茜に接するように、蒼にも接することができるようになった。

蒼はもともと、壁なんて作らない人だし。

誰に対しても優しくて、困ってる人を放っておけない。

そんな人。

私もその一人。

その時、蒼が何かに気付いたような反応をしたのに私は気付かなかった。