ふわりと、柔らかな風が吹いた。
 
それは黎の、乃亜の髪を優しく揺らし、そして通り過ぎていった。

「……」
 
黎は、言葉を続けることが出来なかった。

「…なーに?」
 
そこから言葉を発しない黎に、乃亜は首を傾げた。

「あ……いや、……乃亜、かわいいよなっ」
 
ニカッと笑って言うと、乃亜は口を尖らせた。

「またそういうこと言うー!」

「だってかわいいもん」

「ぶー!」
 
ちょっぴり頬を膨らませ、早足で歩いていく乃亜を、黎は笑顔で追いかける。


──言えなかった。
 
また勇気が足りなかった?
 
いや…。
 
この気持ちを告げてはいけないような、そんな気がしてしまったのだ。
 
何故…?