「え? いやー、乃亜のかわいさを噛み締めてた」
 
その言葉に、乃亜は一瞬きょとんとした後、耳まで真っ赤になった。

「そおいうことはっ、公衆の面前では言わないのっ!」

「二人きりなら言ってもいいわけ?」

「だっ……駄目駄目~! 無駄に乙女をトキメかさないのーっ!」
 
何て叫ぶ乃亜に、周りが大爆笑する。

「あっははは、お前らおかしいよなーっ」

「ほんとほんとー」
 
皆が笑う中、乃亜の友人の一人はぼそりと呟いた。

「付き合ってないって言ったって、それじゃあ誰も信じないって」
 
その呟きを訊いた乃亜は、顔を赤くしたまま怒鳴る。

「違うもんっ、付き合ってないもんっ」
 
しかし、その叫びも空しく、誰も真実を理解してはくれなかった。



(あんなに力一杯否定しなくてもいいのになあ…)
 
学校からの帰り道。いつものように乃亜と二人で歩きながら、黎はそう思っていた。
 
自分も「付き合ってない」と否定はするけれど…。本当は、「そうなんだ、こんなにかわいい彼女でうらやましいだろう!」と声を大にして言いたい。

しかし、どちらかが告白したわけでもなく、ただいつも一緒にいるだけ。

雰囲気的には「恋人」に近いような気もするが、手をつないだこともないのが現状。