「閉じこもっても何も良いことないよ」

――閉じこもってても何にも良いことないよ

 確かに彼女はそう言った。
 それは自分への訓辞でもあるように、僕はそのとき感じた。
 
 これは後になってからの推測だけれど、そのとき彼女は自分と同じような“僕”という存在に出会い、その愚かさを客観したのではないだろうか?
 

 他人との間で生きていくしか許されない人間という動物に生まれておきながら、それを拒み続ける稚拙を、僕を鏡として初めて気付いたのかもしれない。



 彼女は踵を返して数歩進んでから、首だけをこちらに向けた。
 まるで、過去の自分に言うようだった。
 
 「…嫌だったらいい。けれど、嫌でも来なさい」
 ワケの分からない事をもっともらしく言うコンテストがあったら間違いなく上位に入賞するだろう、そんな見事な言いっぷりだった。


――やれやれ