「ねぇ、混んできたって言うならさ」
 痛かったのだろう、彼女はギュッと目を瞑った。
 「続き、放課後にしない?」

 再び開かれた彼女の瞳は、今日が曇りである事を僕に忘れさせた。
 そんな輝きを持っていた。


 彼女は携帯を取り出してパシャリとチェス盤を撮影した。
 
 「……何してる?」
 僕のそれには答えなかった。

 彼女は僕からは何の同意も得ないまま、32の駒をジャラジャラと鞄に片づけてしまう。
 つーか、学生鞄に裸のチェスの駒を一式全部を入れている女子高生が日本に何人いるだろう。
 
 「続き、部室でやるから」

 
 「部室? は? なにが?」
 
 部室?
 何の話をしてるんだ?

 
 「チェス部。 知らない?」
 
 ――知らない?――って訊いておきながら、彼女はそれ以上何も教えてはくれないまま、立ち上がった。
 

 「部室おいで」


 「――なにを言ってるん――」


 「私がもし15だったら絶対、誘いなんて無視するけれど、これは大切な事」