「なんか、混んできたな…」
 いたたまれず、僕は彼女から視線を外した。

 11時40分のチャイムが鳴って、学食は少しずつ混み始めた。
 本来なら12時40分まで授業だが、文化祭だから休憩は自由だ。

 僕は視線を避けたれど、彼女は容赦なく僕を見つめ続けた。
 
 人は――
 人は大人になると5秒以上、相手の目を見ていられないそうだけれど、彼女のそれは裕に10秒は越えた。
 
 「…なんだよ…? 疑ってんのか?」
 「俺だって、別にいつ死んでもいいと思ってる。 適当に共感してるんじゃない…!」

 テキトーに共感してるんじゃない。
 テキトーに相槌する子供達(同級生達)と一緒にするな。


 けれど、なおも彼女は見つめ続けた。
 相手の気まずさなど、関係がない、まるで赤ん坊のように視線を少しも外さない。
 
 「んだよ? 自分だけが“世界の淵”にいると思ってるのか?」
 「“世界の中心”に居心地の悪さを感じるのは、アンタだけじゃない」