「相手の言葉を演技なんだろう、って考え始めると、真心を見せるのが怖くなるじゃん?」
 彼女は続けた。僕の異常事態には気付いていない。
 「人生において、“誰かと分かり合う瞬間”って来るのかな? 分かり合えないまま、結婚して、子供産んで、死んでいくのかな?」


 「分からない」
 僕は首を振った。
 「分からない。生きていけば、いつか…
 “誰かの心に触る瞬間”が来るのか
 “誰かに心を触られる瞬間”が来るのか。それは分からない」


 「だからね。私は、“もう少し生きていよう”と思ってる」
 と、彼女は言った。


 やれやれ、また意味深な事を――