「おなじ?」


 「そう、おんなじ」
 彼女は言いながら床に落ちたビショップを拾った。
 先ほどまでの僕の静かな怒りに対しての辟易していた姿はない。妙に泰然と優雅にビショップを拾上げた。
 「おんなじ。おんなじ事を考えていた、15のときも、今も」


 アンタに何が分かる――!
 という言葉は不思議と出て来なかった。
 僕は彼女の次の言葉を待っていた。彼女の瞳は、優しさと憂いがない交ぜになった光を持っていた。諦めと希望が光輪を作っていた。


 「人がね――」
 「人が社会で生きてくって、“演じる”しかないのかなって思ってた、15のとき。 うんうん、今も悩むよ」
 「高校生にもなるとさ、皆、演技っていう嘘の連鎖で生きてる。100%でなくても、少なくとも一日言う言葉の85%は演技だと思う。 私の事、厭世的ってアンタも言う?」