……しかし
 しかし、僕はそこまで考えて、首を振った。
 
 「やれやれ」
 僕はポーンの足でビショップ突っつき、倒した。
 木彫りの駒は大きな音を立てて机に倒れた。
 
 不自然なほどに大きな音だった。
 彼女は一瞬、ビクッ、と肩を震わせた。

 「ごめん、アンタは勝ちたかった“だけ”なんだよね?」

 「俺が“勘違い”しただけだわな…」
 

 そうさ、勘違い。

 何を期待していたんだろう。
 『分かり合える』なんていう、安い言葉が頭によぎっていたんじゃないか?
 

 バカだな、僕は。
 
 みんな、“大人になった”んだ。
 子供の頃みたいに“心の間近”で生きていない。
 
 もっと脳の浅い部分で生きている。
 それが大人達が教える、正しい人生の立ち位置。

 心から遠い所に自分を置けば、他人と衝突しなくて済む。
 それが今の高校生の処世術。
 大人達の言う、正義。仲良しこよし。友愛。


――だから…
 僕は心を閉ざすしかなかった。
 逃げ出すしかなかった
 仲良しごっこの輪から置き棄てられるしかなかった


――でも、それでいいって…

――そう決めたんだろ?