「そうか、おめでとう」
 僕はまた、彼女の言葉に被せかけた。
 
 「やられた。すっかりポーンだけに意識が捕らわれた。ポーンを動かすか否かだけが選択肢だと、刷り込まれた」
 
 「ずるいけどさ、すごい話術じゃないか?」
 僕は卑屈に笑った。
 苦笑せざるを得なかった。


――嘘だったんだ

 彼女は「自分の世界が顔の見えぬ大勢の諸人に支配されている」と言った。
 自分をビショップに喩え、顔の見えぬ人々をポーン喩えて…

 確かにそれに対し、俺は気を利いた事は言ってやれなかったさ……


………けどさ
――けどね

 だけど、僕は“誰よりも真心を込めて”その話を聞いていたんだよ……