「…マジか…!?」
 そのとき、僕は怒っていた。

 『凍り付いた』などと言うと、まるでその罠に驚愕した風だがそうではない。
 そもそも、それほどにゲームに集中してはいない。
 負けたって別に構わない。

 『凍り付いた』というのは、その罠にではなく、
 『彼女が言ったことが、ただのゲーム的勝利ための罠だった』という事実にである。


 僕は身震いするほどの暗闇に独り放り出された気がした。
 暗い井戸の底から誰かを助けようと右往左往する夢…そんな夢から醒めると自分自身が暗い井戸の底にいた。
 そんな感じだ。
 そして井戸の底では悲しみより先に、怒りが沸いてきた。


 今になって振り返れば、間違いなくそのときの僕は怒っていたと思う。


 「“あの時”だけだね、高屋(僕の名前)が私に怒ったのは」
 と、ミヤコ(後に分かる彼女の名前)は、大学の講堂で回想した。
 たしか、『生命と多様性Ⅱ』の再試の後だった。