「……ホラ、見てみ?」
 しかし彼女は僕の言葉には答えずに、顎でチェス盤を指した。
 「私のビショップは、オマエのナイトを取りたい。戦力を削いでおきたい」


 「…そりゃあぁな」
 彼女のビショップの直線上には、僕のナイトがいる。
 そのまま突撃すれば、ナイトは取れる…。
 もちろん、取れるのだが…。

 「だけど、ナイトの右後ろにはポーンがいる」
 それはそうだ。
 ナイトが無償で倒されるわけにはいかない。
 敵駒がナイトを取ったなら、その直後、ナイトの背後にいるポーンが敵駒を取る。そういう脅しが効いている。
 チェスの常識だ。
 
 「私がナイトを取れば、オマエはビショップを取る」
 彼女は言うまでもない確認をした。


 「そりゃあぁな」


 「変じゃない?」


 「変?」


 「だって、普段は前進しかできない、1マスずつしか進めない、一人では何もできない、友達大好き、群れなきゃ何も始めようとしない、そんなヤツが突然、私を攻撃する。牙をむく」


 「そりゃあ――
 僕の言葉を遮るように彼女は続けた。