「そうだよ」
 僕は痛い好奇の視線を彼女に訴えた。
 同級生の子供達は、お互いに袖を引っ張っては僕達を指差し、まるで道端でオオアリクイを見つけたみたいに、そっとじっと視線を外さない。

 「バカね。ポーンなんか、無視してればいいのよ」
 そう言う彼女は、チェス盤から目を離さない。
 

 すごい台詞だ…。
 同級生達をポーン(最弱の駒)と切り捨てるとは。
 僕は“子供達”と言うだけだ。彼女よりは、ずっとマシである… 



 「ポーンなんか、って…」
 僕はわざと意地悪を言ってみた。
 「だが『チェスはポーンが全てだ』って言った人いたぜ?」


 「それはそうだろうね」
 彼女は視線をあげた。
 揚げ足を取られて怒るのかと思っていたが、逆に彼女の目には悲しそうな光が宿っていた。

 …そんな気がする。

 「それはそうだろうね。だって、私の世界もポーン達が支配している」
 「……これは、私の世界なのに…」


――私の世界もポーン達が支配している
 僕は思わず、その言葉を反芻した。

――これは、私の世界なのに…
 彼女は確かにそう言った…。