「なんか、すげぇやりにくいんだけど」
 と、僕は言った。
 
 彼女が言った”あそこ”とは、学食のことだった。

 時刻は11時。
 普段なら当然、授業中ではある時間だが、文化祭ということで、生徒の自己の判断で昼休みを取ってよい事になっているらしい。
 クラスの出し物にも勤務シフト的なものがあって、休憩時間になった生徒達がバラバラと学食にやってくる。

 「なんか、すげぇやりにくいんだけど」
 混み合っている訳ではないが、日本海海戦あらため「チェス」は、腹を満たすことを第一目的として営まれている学生食堂には明らかに場違いであり、僕達には痛い視線が注がれる。


 「そう?」
 彼女は、ただチェス盤を注視したまま、言った。