「何で分かったの?」


 「いや、なんとなく。だって大概の女子高生は…」
 僕はフェンスに寄りかかったまま、親指を立てて背後を指し示した。後ろからは、階下の裏庭で楽しそうにはしゃぐ女の子達の声が聞こえていた。
 「大概の女子高生はチェスの事なんか知らない。……“日本海海戦のときの連合艦隊の編成について”、と同じぐらい知らないと思う」


 「何、そのたとえ?」
 彼女はさも愉快だ、という風に笑った。
 ちょっぴり陰のある、素敵な笑い方だ。
 「でも、キングを取られちゃいけないぐらいは知ってると思うけど」
 

 「まぁ、確かに」
 確かに。チェスについての方が、日本海海戦についてよりは詳しいだろう。 どっとも、女子高生とは程遠い位置にあるには違いないが…。

 「まぁ、いいや。ともかくさ、アンタはチェスマンを落とした。 昨日ここで……」
 僕はポケットのそれを取り出した。
 「どんな偶然だろう、昨日、これを拾った」


 それは、ビショップ。
 可哀想なビショップ。
 彼女は自分をビショップだと言った…。