たぶん、彼女もまた、そうした心の"絶対防衛線”を持つ人だったのだろうと思う。
 僕が、僕の中心たる“Core”を守ろうとして言った、「チェスマン落とした?」という一言に、彼女は気付いていたのだと思う。
 
 なぜなら彼女は一瞬、視線を中空にやって、
 「え…あ! そうそう!」
 と言った。彼女はきっと、『一度、距離を置かせてくれ』という僕の救難信号を理解し、受諾してくれたんだろう。

 「な? だろ!?」

 
 「今朝から探してたのよ、チェスの駒!」
 

 「朝から!? 学校行事、サボりすぎだろ?」


 「人のこと言えんの!?」
 
 ……と、
 僕達はまるで青春ドラマのそれがするように、一頻り、笑い合った。そうした少年と少女のハニカミこそが、世間一般での青春の定義かもしれないが、まったくもってそんなものは嘘でしかない。
 
 衝突寸前まで交差した二人の心は、今、確実に分断されていたからだ。僕達はハニカミ笑いの中で、お互いに線引きをしたのだ。心と心は引き離され、あとは、まるでどこかの、職業脚本家が妄想するような台詞の羅列が続くだけだ。

 まぁ…どうでもいいけどさ……