「こう、二つの心が交叉するっていうか……『以心伝心』?」

 
 「ふぅん…。 それで『良いよ、アイツら』って?」
 彼女は視線を一度、コンクリートに落とした。

 興味を失ってさっきまでの探しモノに意識を移したのだろう…
 そのとき僕は思った。 


 けれど“今”になって思えば、天野も(彼女の事だ)、この時、その“エキセントリック”を言うのに、やはり勇気が必要だったのだろう。いくら“演技”とはいえ…
 
 
 ……でもそのときの僕には知る由もない。 
 そのときの僕としては、彼女がまるで何の造作もなく“その一言”を言ったように思えた。
 しかも“その一言”は、直後、僕(と彼女自身)を激しく動揺させる事になる。


 さて、彼女は何と言ったのか。
 
 彼女は……
 「ねぇ。それって、“やってた”って事?」
 と言ったのだった。