30分も村上春樹を読んでいたが、いよいよ眠くなってきた。
 
 寝転がって本を読むのは良くない。
 電車の中で読むぐらい、良くない。


 倉庫の厚い鉄製の扉の向こうから、軽音楽部の演奏が聞こえる。『ゴーイング・ステディ』のコピー・バンドだった。

 楽曲や観客の声援は幾分うるさかったが、僕はまどろんでいた。


 ちょい、寝るか…。
 
 本を脇において、目を閉じた。
 すぐに睡魔が襲ってくる。優しい悪魔だ。
 

 が、事はそうはいかなかった。

 
 そのとき、突然、扉が開かれたんだ。
 僕がしたように、音も立てまいとする、慎重さで。