男は月を見上げていたその視線をまた珀火と月千代に戻すと、漆黒に染まった瞳を細めて笑った。
「それでもいい。何もせずに死ぬんは性に合わんからなぁ」
不意に見つめられた視線に、月千代は思わず瞼を閉じる事さえ忘れて凝視してしまった。
(まるで、深い闇のような漆黒の瞳に吸い込まれてしまったような、)
「…貴様など、所詮は下郎。我とは一生解り合えぬな」
「今は俺の事が解せないかも知れんが、いつか…アンタにだって解るさ」
―― 眼を、逸らせない ――
射抜くような視線の中に魅入られていたのか、気付けばいつの間にか男は月千代の目の前まで来ていて、
「……また、月が昇る頃に来るわな」
そう言って、男は月千代の頬を撫でて暗闇の中へと去って行った。