男は草履を履いたままズカズカと月千代の前まで歩いて来ようとしたが、それを見ていた珀火が月千代と男の前に立ち塞がった。



「下がれ、下郎。是より先に進む事は私が許さん」

「…へぇ、噂の姫君は随分と奇妙な付き人をお連れで」


立ちはだかる珀火をマジマジと見つめてから、意味深に呟いた男を珀火は睨み付けるように見た。



「貴様、何が言いたい…?」

「いや?何も。ただ、姫君も物好きやなぁと思うただけや」



本来、化け狐が人間になる事は用意ではない。
それこそ珀火のように、何百と生き続け、永年に渡り妖力を蓄えていなければ出来ない芸当なのだ。見た目は唯の人であれば、化けた後は妖物特有の特徴など微塵も出ない。それをたかが20そこら生きた人間が一目で見極めるなど以っての外だ。


(それを見極める事が出来ているとしたならば…こ奴…!)