さすがに月千代に手を出されたとあっては、それまで黙っていた珀火も、これ以上は黙っていられず月千代と桔梗の前に立ち塞がった。
「どきなさい。侍女ごときが私の前に立つなんて身の程知らずもいいところですよ。恥を知りなさい」
「…ならば貴様らは弱き者らに対し、力を奮う事を恥と知れ。所詮、姫様の力を使わねばのし上がれぬ馬鹿共が」
わなわなと拳を奮わせながら珀火を睨み付けた桔梗を珀火はさも滑稽だと言わんばかりに嘲笑った。
「あまり、生意気な口を叩かない方が己が身の為ですよ。まぁ…死期を早めとうなければ、の話ですが」
「はっ、最早死に対する恐れなど等の昔に忘れたわ」
「戯れ事を…!!」
また振り上げられた桔梗の掌が振り下ろされる前に月千代は珀火の手を引いて声を上げた。
「珀火、もう良い!!!…鼠の事も見越してみせます故に、どうかこの場はお許しを、」
「…生意気な口等きかねば良いものを。元より化物の言葉に貸す耳等もあるまい」