「で、用件とは何で御座いましょうか?」
「先刻、この城に鼠が一匹現れた。…貴様には見えているのであろう?全て包み隠さず申せ」
自分が言いたい事も端から既に解りきっている事だろうが、とでも言いたげな顔で月千代を見る吉次郎の目はとても冷ややかなものだった。
(まるで自分以外の者は全て出来損ないだ、とでも言いたげだな)
人間など、目を見れば先を見ずとも言いたい事くらい読んで取れる。
視線で人を殺す事だって出来る。
(……哀れで弱き者よ、)
「…吉次郎様の御命令とは言えど、それは無理なお話で御座います。私が“見える”のはその者の先…つまりはその鼠とやらをこの目で実際に見なければ、その者の素性など知るよしも在りませぬ。それに、」
「吉次郎様のように権力にものを言わせておられる方ならば、たかが鼠一匹。簡単に捕まえられましょう?」
くすりと笑った月千代につられてまた珀火も笑みを零した。