「…吉次郎め、姫様の力を借りねば鼠一匹捕らえられんとは、なんと情けなき事か」

「珀火、そう言うてやるな。吉次郎とて弱き人間、器が小さいが故に力に頼るのだ」


そんな事を言いながら、月千代はくすりと笑みを零した。本来、城主の悪口を言えば斬り捨てられてもおかしくない話だが、そんな月千代の姿を見ているのは珀火だけだった。
布の擦れる音を鳴らしながら長い廊下を月千代と珀火は歩いて行くが周りには人っ子一人居ない。


それもそのはず、この弦鵞城での月千代の扱いは酷かった。
主の吉次郎が奇術等の類を邪険に扱う為、周りもそれに影響されてしまっているのだ。
現に月千代に与えられた部屋は城の中でも最下部にあり、殆ど地下牢といった方が早い。食糧などは侍女が決められた時間に持ってくるので困らなかったが、珀火からしてみれば、各地にたらい回しにされ、あまつさえ地下牢のような場所に閉じ込められている月千代が不敏で仕方がなかった。



「……仮に奴が人間だったとしても、人間の皮を被った醜き欲の塊に過ぎませぬ」


そう皮肉めいてから珀火はキッと目付きを鋭くさせて吉次郎の部屋へと繋がる襖を開けた。