「…珍しい、」
ぽつり、と珀火が意味あり気に呟いた言葉に月千代は、さも「何が」と言いたげに眉を潜めて珀火を見た。もっとも、そんな月千代の不満げな顔を見て珀火はくすりと笑みを零すだけで、月千代は更にむっとした顔で珀火を見ている。
「……感傷に浸るとは姫様らしくありませぬな。やはり先刻現れたあの下郎に心奪われておいでか」
「…何を思うておるかと思えば、我があの下郎に?…あははは!!まさか!!」
声を上げて笑う月千代を見た珀火は少しだけ切なそうに、「しかし、」と言葉を繋いだ
「姫様がお父君のお言葉を思い出すなど…御心はこの場にないように思えますが?」
「ふふっ…まさか。ただ、たまには人並みの感情に流されてみたくなっただけの事よ」
目の前でクスクスと妖艶に笑う姫は、一体どれ程の男達を魅了してきたか、
本来なら人が得てはならぬ力を受け継いだばかりに、どれ程の苦労と苦難を強いられたか、
(全くもって…哀れな、)