急いでご飯を食べると
あたしは、洗面台に向かった。

栗色のロングストレートを
耳の下から緩く巻いて。

ナチュラルなタレ目、

ポテッとしたほっぺ、

キスしたくなるような唇。


あまり好きじゃないけど
"おとこ"が好む香水。


全ては、外見なの。
みんなが思う、人形じゃないと
いけないの。



…そう。



あたしは

「…ただのお人形なの。」

静かに囁いた。
出かける前の合言葉。


本当の自分は、必要ないの。
誰も、求めてはいない。
誰かを求めてはいけない。


あの日から…


しばらくすると
陸が洗面台に顔を覗かせて、
頭に手を置いた。

慌てて笑顔で振り向く。

「いってくる。
戸締まりちゃんとしろよ?
……変なこと考えんなよ。」

「うん。
帰り、苺大福買ってきてね!」

不安げな陸に莉麻は
元気に答える。


心配するのも仕方ない。

"あの日"…

それだけ
陸には、不安にさせてしまったのだから。