「チトセ

 ……

 どうして、泣いてるの?」

振り返ろうとして、振り返らない男性の背中----

「……」

過去の傷痕から溢れ出す涙は、どうしたって止まらない。

蛇口をどんなにかたく閉めても、ポタポタと落ちるあの水滴のように。

留めておくにはもう限界、私だって誰かに履き出したい!

もう……


「チトセ、まさか

 ……そうなの?」

私はなぎの問いかけに、違うともそうだとも言えずにいた。

何も話さなくても、流れる涙がそうだと言っている。

小刻みに震える体……

「チトセ、話して

 私達、友達でしょう?」

私は、首を横に振る。

「話せない」

「私の悩み、聞いたよね?」

「……」

「ほらっ、話すの

 今度は私が聞いてあげる番」

誰かに、聞いてほしい。

「……誰にも、言わない?」

「もちろん、二人だけの秘密だよ」