事始めの日の夜。
山も里も騒がしかった。
兄と汐祢が駆け落ち者となったからだ。
山の者は里の者を快く思っていなかった。
逆もまた、同様だ。
それゆえ、長者の娘と山の若者が駆け落ちするなどと誰が考えたたろうか。
だが、兄は出会ってしまったのだ。
境屋敷にいた汐祢に。
二人は少年を介して思いを交わしていた。
仲を取り持った少年も、これほど事が大きくなってしまっては、もう山にはいられないだろう。
自分の行く末を見定めるように少年は片目を細めた。
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