男は辺りの景色をぐるりと見回した。

昔、この辺りの山には、製鉄に携わる民がいたという。


木を切り、川の上流から汚れた水を流す山の者を、里の者は嫌った。

山の者は製鉄の際に目を患うことが多く、里の者は山の者を一つ目と蔑んだ。


揉めることも多かったという。


しかし、今、男の眼前にある山々は閑散とし、煙一つ昇っていなかった。

この辺りにいた山の民は、どこかへ流れていってしまったらしい。


男の胸に、僅かな郷愁が過ぎった。