「着いたぞ。」


暫く声を張り上げ続けていたら、いつの間にかマンションの前にいた。


えっ?


家も調べたの?!


翔はどんどん進んでいる。


エレベーターをちゃんと5階に留める。


手は掴んだまま。


「ちょっ……!何で知ってるの!?」


ずっと背中を向けたままだった翔が、こちらをむいて笑った。


「あぁ、俺、隣の部屋だから。」


その部屋の前で、示しながら告げた。


隣の部屋といえば。


ポストの表札が浮かぶ。



野田………。


……………………


…………え?




血の気が引いていく。


野田って………。


何で気付かなかった?


いや、気付いても何も出来ない。


心の準備ができるくらいだ。


ドアを凝視していた私の視界に、ふいに手がちらついた。


「おい?」


翔が手を振って覗き込んでいた。


目を移す。


コイツと隣。


地獄でしかない。


「なんで…?」


この類のものを、何度言葉にしたか分からない。


翔は、私から目を逸らした。


「……まぁ、細かいことは気にすんな。とにかく入れよ。」


細かくないだろ。


入るわけないじゃん


頭が混乱している。


こんな状態で、アンタの部屋に入れない。


そもそも近寄りたくない。


「………嫌。それじゃあ。」


翔の方を少しも見ずに、自分の部屋に入る。


「おう。じゃあな。」


何の動揺もしないで、普通の返事が返ってきた。


拒否されることを分かっていたのか。


私は扉を閉めて、昨日と同じようにベッドの上に仰向けに倒れ込んだ。






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