長くも短くもない真っ黒な髪がかかる整った顔立ち。
180くらいありそうな長身。
彼は壇上に立ち、薄く微笑んだ。
クラスの女子達の頬が朱く染まる。
‘カッコヨくない?’
‘岡部くん並み!’
‘何処のご令息?’
いつもならくだらないと思う様な雑音が、耳に入らない。
私の視覚や聴覚は、彼だけに向けられていた。
「野田 翔です。大阪からきました。よろしくお願いします。」
ありきたりな自己紹介をしながら、翔は目を彷徨わせる。
生徒達は、少ない情報から家柄を割り出そうとザワツく。
私には、そんなことはどうでもよかった。
どうしてここにいるの?
野田って何?
私の知る彼の名は、水森 翔だった。
呆然としていると、彷徨っていた翔の眼が、
捜し物をみつけたみたいに
私のところでとまった。
視線が交わる。
彼は
微笑みを
いっそう深くした。
スカートの裾を、ぎゅうっと握り締める。
正確には、スカートのポケットの中の物を。
微笑みを、睨みつける。
彼奴は私を見て驚かなかった。
私がいることを知っていて、此処に来たのだ。
'