チャイムが鳴り席に着くが、皆そわそわしている。
ガラッ
先生が開けたドアの音に、教室が静まる。
ドアの硝子越しにボンヤリ見える程度の人影に、一斉に好奇の目が向けられた。
転校生というものが、余程珍しいのか。
高い背丈から、男子だと発覚。
男子は落ち込み、女子は一層眼を輝かせた。
先生だけが入ってくる。
岡部は寝たまま。
「おはよう。今日は静かだな。そんなに転校生が気になるか。」
いつも此だけ静かだと良いんだがなぁ、と呆れたように生徒達を見回す。
全員が真面目に席に着いて先生を迎えるなんて、久しぶりだ。
早くしろ、じらすなと、15人分の眼が訴えかける。
落ち込んだ男子も、興味を失ったわけではない。
「…じゃあ、入ってもらうとするか。野田。」
私は何となく、ぼんやりと見ているだけだった。
さして、興味があるわけでもない。
だから
「はい。」
私が転校生に焦点を合わせたのは、この一言を、彼の声を聞いた直後だった。
その低い声は、私の耳に馴染んだもので。
もう、聞かない筈の声だった。
彼の顔を見た私は
見開いた目で、見間違いでないことを確かめた。
震える唇で
ショウ
と、呟いた。
そこに居たのは
────私の初恋の人。
'