バレてはいないと思うけど、疑ってるかもしれない。

…気をつけなきゃ。

「…気のせいならいいわ。ライブ頑張りなさいよ」

「はーい」

────集中しよう。




時間が近づくと共に集中してきた…あたしは緊張ってあんまりしないの。少しずつ頭が冴えてくる感じ。

音楽が鳴り出す。
お客も満席。暗い中でもわかる…そしてステージに上がりライトが当たる瞬間

あたしは中森セリカになるの!

この瞬間が好きだった。この時だけは、虎の事も忘れちゃう。


みんな!
今夜は一緒に楽しもうね!






──数時間後
あたしは幸せな気分でステージを降りた。

身体はヘトヘト。でも気持ちよさは残ってる。

呼吸するのも大変なくらい体力を使い果して控室の長椅子で横になっていた時、

ドアをノックする音が聞こえた。

遠藤さんなら入ってくるはずだけど…?
待っても入ってくる気配がないって事は他のスタッフかしら?

重い身体を何とか起こし、ゆっくりと歩いてドアを開けた。

「はい?」

「セ、セリカさん!お疲れさまでした!」

「あ…仁奈ちゃん?」

ドアの外には少し興奮しながら花束を抱えた仁奈ちゃんの姿があった。