物音一つせず…静まりかえった処置室。

正己だけが怒鳴っていた。

「捜したのか!?」

「いえ…しかし一人で移動できるわけありませんから…」

「誰かに連れ出されたとでも?!」

「…」

「分かってんのか!?相手は芸能人の子供だぞ!大事な患者なんだ!他の一般の客とは違うんだ!」

「はい…」

一方的に坂本さんが責められていた。
それが申し訳なくて、私は気が重かった。

「本当に居ないのか…?!まさか…誘拐…なのか?」

「わかりません…でも、事実そうだとしたら…早々に警察を呼ぶべきだと思います」

焦る正己とは対照的に、坂本さんは冷静に考えを述べる。それが正己にとって気に入らないらしかった。

「それくらい分かってるよ!…クソッ!とりあえず10分だ!10分捜して…見つからなければ警察に電話する!捜せ!」

「は、はい!」

正己の命令に皆が赤ちゃんを捜しに院内を走り回った。

皆…ゴメンね。

正己みたいなヤツにキレられて、ムカついてるに違いない。

私も嫌だった。

しばらく捜し回って、赤ちゃんが居ない事を確認すると、正己は怒りながらも諦めて言った。

「…警察に電話しろ。それと森島さんにも連絡だ…」