何かを言う間もなく、電車は走り出した。

……しまった…!

あたしは一応、変装してはいたけれど…彼と目を合わせて会話していたのだと思った。

なんでバレたの!?
声でかな…?
やっぱり琉嘉にもすぐバレたくらいだし…

今も周りの乗客にバレてる気がして、振り返るのが怖かった。

とりあえず赤ちゃんを抱いていたし揺れて危ないから、あたしは優先席に座った。

──どうしよう…
もし、あの駅に警察が聞き込みとかに来て、あの駅員があたしの事話したら…?

迂濶だった!
困ってたからって!いくら親切にしてもらったからって!
もっと慎重に他人と接するべきだった!

小さな事や、ほんの些細な事が情報となって警察に伝わるんじゃないの?!

東京駅に着くまで、あたしはずっと自分を責めていた。

あたしのテンパり具合とは対照的に、腕の中の赤ちゃんはスヤスヤと眠っている。

…彼がちゃんとしてくれたからだね…
誰にも言わないでくれないかな?

『中森セリカ』が生まれたばかりの赤ん坊を抱いていた!

ってネタは週刊誌的にもヤバいから!

アレコレ考えてるうちに東京駅に着いてしまった。


あたしと赤ちゃんは、琉嘉をずっと待ち続けた…