彼はあたしの大きなバッグを持ち、ホームまで一緒に来てくれた。

…ミルクを飲ませるついでに着替えるつもりだったけど

もうここじゃ無理だ。怪しまれる──

早くも当初の計画から大幅に予定が狂ってしまった事を、あたしでは修正できない。

もう諦めるしかなかった。

それでも親切な駅員は色々と赤ん坊の扱いのコツみたいなものを教えてくれた。

「僕も最初は育児書とかめちゃめちゃ読んだりして苦労しましたよ!初めは誰だって分からない事ばかりなんです」

そう言って何度もあたしを励ましてくれていた。

こんなパパなら…奥さんは幸せでしょうね?

そう思わせるくらい、育児をしているんだなって思った。

彼の言った通り、数分後に電車がやってきた。

あたしは電車に乗り込み、彼から荷物を手渡される。

もうこの駅に来る事もないし…ちゃんとお礼を言わなきゃ。

あたしは頭を軽く下げてお礼を言った。

「ホントに助かりました。ありがとうございます」

ドアが閉まるのを知らせるベル音に紛れて、彼は笑顔で答えた。



「いえいえ、子育て頑張ってくださいね。中森セリカさん」



「…えっ」

そう言うのと同時に電車のドアは閉まった。