「なるほど。気を使いますもんね」

とっさについた嘘を彼は信じただろうか?
あたしは内心焦りながら、必死で芝居していた。

「実家はどちらですか?」

「ぐ、群馬なんです」

「じゃあ乗り換えもありますね?この子を連れてじゃ大変ですね。…と、もうお腹いっぱいになったかな?」

話してるうちに赤ちゃんは哺乳瓶のミルクを飲み干していた。

「いい飲みっぷり…」

「いつもちゃんと飲む方ですか?」

「そう、そうなんです!」

つい、普通に感想を言ってしまうところだったと気づき、慌てて答えた。

その間も彼は手慣れた感じでオムツとかも替えてくれた。

「はい!できた。これで少しはすっきりしたかな?…お、眠っちゃいそうだなー」

赤ちゃんがウトウトしているところで渡された。

「あ、ありがとう…」

…全部、彼にやってもらっちゃった…
助かったけど、あたし何一つできなかった…

赤ちゃんはゆったりと眠りにつきそうだ。
あたしは複雑な気持ちで寝顔を見ていた。

駅員の彼は腕時計をチラッと見て、あたしに言った。

「あ、もう上りの電車が来ますよ?荷物はこれでいいんですか?」

「あ、ハイ…」