こちらへ歩いてくる人物が見えた瞬間、私は決断しなければならなかった。

──セリカはこない!

この子を…この手を離すしかない!!

'ゴメン!!龍之介…!'






手を離そうとした瞬間、私の手に冷えた細い指が触れた。

「…?!」

突然の事に思わず声をあげようとして、事態に気付いた。




───セリカ…




セリカが窓の下で龍之介を支えている…
とっさにそう思って私は手を離し龍之介をセリカへ託した。

一秒…
待っても赤ん坊が下に落ちた音もしないし形跡もない。

セリカが受け止めてくれたんだ…

私は一気に安心した。
とりあえずの私の仕事は終わったわ…

そう思ったが、安心しているヒマはない。

近づいてきた人物を見て、私は声をかけた。




「正己じゃない…今夜は仕事だったの?」

「琉嘉…」

暗闇から現れたのは正己だった。

彼は私の挙動不審な様子を見て怪訝な顔をして言った。

「こんな所で…何してるんだ?」

そりゃおかしいわよね?

靴は履いてないし、窓を開けていたし…
でも現れたのが正己で良かった。そう思いながら答えた。

「貴方の部屋に忍び込もうとしたのよ」