静かに気配を殺しながら、なおかつ素早く目的の場所まで行くのは至難の業だ。

それに赤ん坊を抱いていたし…

新生児室からまっすぐ続く廊下を左に折れると、私は少し安心して息を吐いた。

あぁ、なんだ
私…息を止めてたんだ。

緊張したぁ…でもここまで来れば少し安心。

セリカが待つ窓は、この一番奥。

そこからもう少し行くと────





正己がいる部屋。
彼の大切な〈院長室〉

暗くて、部屋の位置も確認できなかったのに、私はその部屋の方を見つめていた。

数秒経って我に返り、ため息をついた。

──何、思い出したりしてるの?
彼とは終わってるのよ…

気を取り直して、私は歩き出した。

セリカに説明した通り、一番奥の窓の前に立つ。
こちらも予め鍵を開けておいた。

音がしないようにゆっくり開けてセリカの姿を探した。

街灯も何もない──
一番暗い夜の時間帯。セリカどころか何か動いているものの気配すらしなかった。

来てない…?

声を出すのはヤバいと思いながらも…仕方なく彼女を呼んだ。

『…セリカ?』







「パタ、パタ、パタ」

その時…誰もいないはずの廊下を歩く
何者かの足音が聞こえてきた…