先客が接客されていた間、私は壁に貼られた物件を眺めながら

先客の女性と担当者のやり取りを聞いていた。

しばらく聞いていくうちに彼女もワケアリな客だと分かった。

──私にとって都合がいい…

水商売らしき彼女は上京したてで即日入居できる安物件を交渉していた。

交渉はすでに終わりに近づき、契約段階に達していた頃
別の社員らしき男性が店内に戻ってきた。

私の顔を見るなり営業スマイル。

「すいません、お待たせしてましたか。えーと、アパートか何かお探しですか?」

私も愛想よく答えた。

「えぇ。今日から入れる賃貸マンションか何かないかしら?」

「今日からですか?」

「実は昨日上京してきて…」

「昨日上京?お仕事ですか?」

「キャバクラなの。店の寮に…って話しが手違いで入れなくなったんです」

「あぁ…なるほど」

「ホテル住まいじゃ辛いでしょ?だから今日から入れる所を探してるんです」

男性社員は慣れた感じでファイルを取り出し、何件か私に見せながら言った。

「予算はどうですか?」

さっき考えていた条件じゃ、家賃はあまり絞らない方がいい。

予算オーバー覚悟で私は金額を提示した。