映画初日の挨拶という憂鬱な仕事を終えて、あたしが戻ってくると遠藤さんがすごい剣幕で駆け寄ってきた。

「セリカ!何なの、あの態度は!?」

怒ってはいるが、理性は働いてるみたいだ。ちゃんと他の人には聞かれないように小声で話していた。

「ごめん…気分が悪いの。もう出よう」

彼女が怒るのも無理ない。挨拶は本当に酷い態度だった。

質問には少ししか答えなかったし、笑顔も作れなかった。

気分は最高に悪かった。

だから監督にも他の俳優さんや女優さんにも挨拶もせずに帰った。

…こんなのは初めて。

どんなに具合が悪くても、どんなにムカつく事があっても

仕事では笑顔を作れたし、愛想もよくできたし、必ずスタッフや他の出演者にも挨拶をして帰ったのに

何一つできなかった。


…みんな虎之介のせいだ。

あたしの人生を狂わした男。
あたしの人生を台無しにした男。

彼は最後まで、あたしの顔は見なかった。

もう時間は元に戻らないとわかっていながらも

夢であってほしいと願っていた──



そして翌日から
地獄の日々が始まった。

スポーツ紙の一面とワイドショーを賑わせたのは

昨日のあたしへのバッシングだった…