「俺もう誰かに恨まれるような事してないのになぁ~。」
ヒリヒリするのか線状に付いた薄赤い痣をさすり、スラリと高い身長をん~んっと伸ばす。
人気のない学校の倉庫は埃臭くてたまらない。
美姫は早くここから出たかった。
「もうって事は昔してたんですよ、恨まれるような事。先輩は自分で分かってるんですよ。いっその事甘んじて受けるべきです。」
「んはー、そっかぁ。でも痛いのはやだなぁ。」
さっきまで半泣きで縛られていたのにもうケロッとした顔でなんだかニコニコしている。
ほんとに脳天気という言葉はこの人の為にあるものだ。
崇城 純一(そうじょう じゅんいち)。
部活動も学年も違う素性の知らない先輩。
美姫が初めてこの男に会ったとき、度肝を抜かれ、ついでに悲鳴も上げそうになった。
この男、パンツ一丁で縛られ、掃除用具の中に突っ込まれていたのだ。
◆
ある日、美姫が登校すると教室が少しざわめいていた。
少しだけ荒れていたのだ。
椅子があられもないとこにあったり、机が斜めを向いていたり…。
しかし美姫にとってそんな事はどうでも良かった。
さっさと席に着いて、次の授業の教科書をめくり、軽く予習をする。
前もって知っておく事は何気に大事な事だ。
少しは余裕が持てるし、いざと言うときパニックにならない。
放課後、美姫は教室の掃除当番だった。
だいたい4人ぐらいで軽く掃き掃除をしたり黒板を磨いたり。
その日も早々と終わらせて友人と帰る予定だった。
「美姫~っ!お願い!今日だけ見逃して!」
「やだ。」
「そこをなんとかぁ~っ」
友達のサクラはラブラブの年上の彼氏が珍しく早くに仕事が終わるらしく、瞬時に帰ってお洒落したりお化粧したりしたいらしい。
年上の彼氏に一喜一憂するサクラの姿は可愛らしい。
しかしそれとこれとは話が別。
「ちゃっちゃと終わらせれば良いだけの話じゃない。」
「鬼ーっ!」
鬼とは酷い言われようだ。
何回変わって上げてると思っているのか。
美姫はハイハイ、といいながら、何気なく掃除ロッカーを開けた。