翌朝、昨夜の雨が
ついさっきまで降っていたのか
地面は、まだ濡れている。

私は、お化粧もしていない
寝起きのままで

庵と手を繋いで
水溜りを避けて歩く。

車の横に立ち、庵を待つ
要の姿が見える。
 
私は、軽く会釈をした。

「また、連絡する」

「うん、いってらっしゃい」

車に乗り込む庵、ドアが閉まる
 
後部座席の窓が開き
庵の手がみえる。
 
彼が二度、手を振ると
車は走り出す。
 
私は、車が見えなくなるまで
ずっと手を振り、庵を
見送っていた。

「親父、スミレさん 
 まだ、手を振っていますよ」

「知ってる」

前だけを見て、煙草を銜える庵