庵は優しく私の手に触れて
低い声で呟いた。

「ごめん、すみれ
 
 俺は、いつも
 お前に、こんな思いを
 させていたのか?」

庵の言葉に、胸の痞えが
消えてなくなって行くのを
感じた、私の頬を涙が濡らす。

「貴方の事、全部知りたいって
 言ったけど
 そんなの無理だって事
 私、ちゃんと分かってる
     
 だから、全部教えて欲しい
 なんてもう言わない
 ほんの少しだけでいいの
 
 貴方の、あの部屋へ
 もう二度と行けないなら
 それでもいいよ
 
 もう少しだけ、二人で
 過せる時間がほしい
     
 それが一時間でも
 三十分でもいい」

庵は私を、その腕に強く
抱きしめてくれた。
      
「ごめんな」