・・・月日が流れ、日本中の産業が力強く動きはじめる昭和の時代がやってきた。
イネの家族も、変わりなく緩やかな賑やかな平和な日々を繰り返していた。子供たちも、ずいぶん大きくなり、花代姉さん、かん太に続き、この春、いよいよイネは社会人になることになった。きちんとした性分は、どの面接でもわかるらしく、大抵の会社でイネを秘書として迎えたがった。当時の就職は、ほとんど、自分の息子の嫁に良いかどうか、我が家に迎えてよいかどうか、などという観点から女性を採用することが多かったようだ。家のことをキチンとこなす・・・これが、女性の一番の就職に有利な資格のようなものだった。
そうした中で、オシャレなイネは、憧れの銀座に勤められるという理由で、大手自動車会社の受付として務めはじめた。
銀座の街は、右も左も新鮮でオシャレな雰囲気であった。決して裕福でない10人兄弟で、学校と家の往復の繰り返しだったイネにとって、喫茶店でコーヒーを飲むのも、ケーキ屋さんを見るのも、帽子屋さんを覗くのも、すべてが初体験であった。