・・・緑あふれる有栖川公園を抜ければ、家に着く。「ただいま・・・」1列に並んで、静かに家に入った。お医者さんと看護婦さんが、絹代の布団の傍にいる。・・・「ただいま、母さん」「あ、お帰り。みんな楽しかった?」「・・・・・。」「・・・ちょっと、ちょっとだけね。絹代の具合が悪くなって・・・父さんに急いで帰ってきてもらったのよ。ごめんな。」・・・横たわっている絹代の顔は、今までになく透きとおって、美しくさえ思えた。父は、真剣にお医者さんと話をしていた。
医者が帰って、すっかり日も暮れ、夏の終わりの静かな夜であった。
・・・・ゲホっゲホっ・・・その晩、見た事もないほどの大量の吐血とともに、絹代は九の字に体をよじり苦しんでいた。あわてながら母はお医者さんに電話をして、父は、絹代の布団にうつ伏せて泣いていた。
・・・享年13歳、兄弟で一番美人な絹代姉さんがこの世を去った。・・・・
絹代の死は、兄弟にとって、初めての悲しい出来事となった。2日後、夏休みにもかかわらず、たくさんの人が葬儀にきてくれ、何だか、バタバタ時が過ぎていった。イネが食器を片づけに、台所にいくと、母が一人で嗚咽していた。誰にも気づかれないように、静かに静かに泣いていた。大声出して泣いてもいいのに・・・一番悲しいのは母ちゃんなのに・・・イネも母に気づかれないように廊下で静かにうずくまって泣いてしまっていた。