翌朝、父の姿がなかった。「おばちゃん、お父さんは?」「ああ、ちょっと急いで家に戻ったんだよ。朝ごはん食べたらバス停までおくるから、花ちゃん皆連れて帰れるかね。」「・・・うん、イネちゃんがしっかり道覚えているから大丈夫よね」「・・・よかった、家まで送ってあげたいんだけど、おばちゃん町内会議の当番なのよ。ごめんね」
・・・バスに1時間乗りながら、イネの胸騒ぎは止まらなかった。「・・・ねね、なんで、父ちゃん先に帰ったの?」「さあな」「ちゃんと帰り方わかるの?」「さあな」「でも、父ちゃんの急用って何だったんだろ」
「・・・。」「・・・もしかして、絹代姉さんに何か・・・・」その言葉を誰もが避けていたのだろう・・・小さい妹のその一言のあと、全員沈黙したままバスに長いこと揺られていた・・・・かん太が、袖口で涙を拭いているのが、後ろの席から見えて、イネも涙がこぼれそうになった。
イネの膝には、寝入ってしまった月代の頭がのっている・・・泣いたら月ちゃんが起きちゃう・・・こぼれそうな涙をぐっとこらえて、窓の景色をみつめていた。