年末のせわしない空気の流れる社内で、イネは、荷造りをしていた。「田島さん、いなくなると淋しいなあ・・・」「それに、片付けが大変になるわ・・・まさか、結婚?」「ちがうちがう・・・急で、ごめんなさい。どううしても、よその仕事手伝うことになって・・・」「へえ・・・」「でも、一条さんも辞めちゃうんだって。」「つまんなくなるわあ・・・・」・・・イネは、黙って机の整理をしていたが、内心ちょっと、こそばゆかった。みんなの憧れの人を独り占めするみたいで、ちょっとした、優越感にひたっていた。

 年が明け、家族そろって初詣。イネは家族の健康と一条との仕事の成功をお願いした。
・・・帰り道「お父さん。仕事黙って変えてごめんなさい。」厳格で30年以上も同じ仕事を続けてきている父に、結局年末、一条の話をすることができなかったのである。「・・・母さんから聞いたよ。」・・・父はその一言だけだった。イネもそれ以上、何も話せず、父の横を歩いて帰っていった。