・・・イネは、頭をあげて、目が合い、地面に頭がぶつかる勢いで、急いで頭を下げた。
「かっこよかったねえ~」「ほんと!あんな素敵な人みたことないわ!ね、田島さん」「・・・あ、う、うん。素敵だったわね」受付嬢の盛り上がりは、退社時刻まで続いた。
彼女はいるのかしら・・・結婚してるのかしら・・・誘われたらどうしよう・・・どんな服でデートしようかしら・・・女性の妄想はつきる事がないのだ。
 翌日から、社長にピッタリくっついて、毎日一条金弥が受付の前を通る。受付嬢たちのテンションも毎回わかりやすくあがるのである。化粧が濃くなったり、声がワントーン高くなったり、香水をつけてくるようになった受付嬢もいる。イネも相変わらずドキドキはするものの、最初の動揺もおさまり、通常通りの業務を静かにこなしていた。女性社員の憧れの一条と挨拶程度のかかわりのまま、1年がすぎた。