ひいふうみい・・・鮭を1匹ずつ10個の弁当箱に入れて・・・
「さあ!できたよ~。」・・・かわいい手が次々出てきて、弁当箱を取って鞄に入れて走り出す。「いってきま~す」「いってらっしゃい」「いってきま~す」「お父さん一緒に出よう」「いってきま~す」「いってらっしゃい・・・あ、イネ、帰ったら英代の子守り頼むよ」「また~・・・姉ちゃんの着物で作った、ねんねこにしてよ・・・みっともないのじゃオンブすんの嫌だからね」「・・・はいはい。いってらっしゃい」
 ・・・花代・絹代・イネ・かん太・けん太・スミ代・タエ・サエ・月代・英代・・・イネは10人兄弟の3番目。しっかりものの、働きもので、母は、姉よりもイネを頼りにしていた。
 「はあ~嵐のあとの何とかだね・・・。よしよし・・・英ちゃん」9人の子供と父親の出て行った後をかたしながら、産まれたばかりの英代を背負って、井戸に洗濯に行く・・・毎日毎日、同じような時間が緩やかに過ぎていった。
 洗濯場では、いつもの顔ぶれが、洗濯しながら、まさに、井戸端会議だ。「ちょっと聞いてよ、昨日は、姑と取っ組み合いのケンカしてやったわ。」「まあ、凄い・・・」「見て~これ、そんときのアザ!」「まあ・・」「それで、あたしは足に噛みついてやったのさ!」「・・・へえ・・・」アハハハっ・・・
・・・・いつの世も、女のおしゃべりは元気の源のようである。
 「こんちわ!いい魚はいってますよ~」「ああ、魚屋さん・・・」「・・・うちは、いいわ。ケンカしたから今日は、ご飯つくらないの」「・・・うちは、いただこうかな・・・でも、なんせ10人も子供がいるから・・・」「サバなんてどうです。野菜と煮れば量増ししますぜ。」「・・・そうね、じゃそうするわ、サバ5匹ください」「まいど!」・・・・じつに平和な幸せな日々だった。