「ねーさん、まだ着替えてないじゃん。もうこんな時間だぜ。早く着替えてこいよ。」

「え、でも。」

「わかってるって。ねーさんの優しさ。最後まで見捨てないで心配してくれて本当に嬉しかった。」

涙があふれそうだった。

「何も言わないでいてくれたことも感謝してる。」

タツヤは右手を私に差し出した。

「握手しよ。」

ためらう私の右手をタツヤはさっと握った。

温かくて厚い手。

優しい手・・・。

「元気で。」

もうだめだった。

握られた手に視線を落としながら涙があふれて止まらない。

「もう行けよ。俺、後から上がるからさ。」

私の涙に気付いたのか、タツヤは私の手を離した。

私は促されるままエレベータに乗る。

タツヤが笑って言った。

「終電乗り遅れんなよ。」

そして、エレベーターの扉は静かに閉まった。